舌切り雀の幻想論

もしもこの喉が
あと一回しか使えないとするなら
貴方は誰に何を伝える?



「おっ前マジで可愛くねぇ!」
「男が男に可愛いって言われて喜ぶと思ってんのかボケが。」

 あーあ。
 まただ。
 またこの舌は、言わなくていいことばかり喋る。

「はー…。お前の弟はもうちっと可愛げあんのに…なんでお前そんななんだ?」
「っ!」

 深く溜息を吐きながらコイツはピンポイントで俺の逆鱗に触れてきた。

「だったら、俺じゃなくてアイツ選べば良かったじゃねぇかよ!」
「はァ?なんだイキナリ…」
「…俺だって、お前なんかより数倍優しくてカッコいい会長の方が良かったよ!!」

 叫んだ途端、俺は全速力でその場から逃げ出した。
 腕力じゃ到底敵わないけど、幸い俺は脚だけは自信がある。
 自分の特技をこんな時だけ発揮して、俺は全身全霊で駆け出した。

 向かった先は、生徒会室ではなく。
 青い空が見下ろす屋上。

「………畜生……。」

 自己嫌悪に目の前が揺らいで。
 学校の不良共が喧嘩してでも手に入れたがる折角の絶景の景色も見えないで居る。

 大体いつも、俺の言動でアイツを怒らせて。
 それに対して俺も切れだして。
 減らず口だけ叩いて。
 言いたいことの一個だって、喉の奥につっかかったまま。
 いつまでも出てこないで挙句には言葉が道に迷っている。

「でも、今回悪いの、俺じゃねぇもん…。」

 いや、元を正せばやっぱり俺が悪いんだけど。
 でも、今回は、絶対に俺よりアイツが悪い。
 俺が一番言われて嫌なこと、を。
 アイツが平気で言うから。

 無愛想で気難しく見られるくせに、性格の良さで人望も厚く友達も多い弟と。
 素直にお礼の一つも言えない癖にプライドだけは高い俺と。
 正直、なんでアイツが俺を選んだのか全く分からないくらい。

「……畜生…。」


 もしも。
 もしもこの喉が欠陥品で。
 俺の喉があと一回しか使えないんだとしたなら。
 俺は、誰に、何を。
 伝えるんだろう…。

「…なんて。そんなん、決まってっ癖に。」

 アイツの髪と同じ青い空見上げて。
 去年の冬、珍しくこの街に降った雪の日のことを思い出す。
 アイツは俺のコンプレックスだった色素の無い白い髪をくしゃくしゃと撫で回して。
 ガキの頃から散々「ジジィみてぇだ」って笑われたこの頭を。

『一瞬雪に塗れたんかと思うくらい、綺麗な色してんのな』

 って。
 初めて別の意味で笑ったんだ。

 馬鹿じゃねぇのかなんて。
 女口説くんじゃねぇんだから、なんて。
 あの時も減らず口しか言えなかったけど。

「…もしもこの喉が、あと一回しか使えないんだとしたら。迷う事無く、伝えに行くのに。」

 この自慢の脚を酷使して。
 どんなに遠くからでも。
 他の誰にも使わずに。

「…絶対に、伝えに行くのに。」


「───…何を?」


「…好きだ、って。」
「………、誰に?」

 後ろから回ってきた手に顎を取られて、無理矢理上を向かされる。

「お前以外に誰が居るんだよ。やっぱ馬鹿だろお前。」

 上から逆さまに覗き込む顔に、眉を寄せて、相変わらずの減らず口を叩けば。

「やっぱお前可愛くねぇな。」

 そう言いながら、重ねられる唇に。
 舌切り雀の幻想を重ねて。

「…煩ェよ…」

 またこの舌は、可愛げのない台詞しか吐かない。


もしもこの喉が欠陥品で。
俺の喉があと一回しか使えないんだとしたなら。
この自慢の脚を酷使して。
どんなに遠くからでも。
他の誰にも使わずに。
伝えに走るよ。

最後の台詞は、お前にしかくれてやらないから。


「良かった。」
「何が。」
「さっき、『会長』っつったら此処から突き落とすとこだったな。」

 …殺人鬼が後ろに居る。

「危ねぇな。」
「だから『良かった』っつっただろ。」

 そんな束縛すら、この腕に閉じ込めて。
 やっぱりまだ、言いたいことの一つだって伝えられないまま。


 俺等はただ不器用に恋をする。


-了-



■ヒトリゴト■
グリ白学園パロ、です。多分。(多分って何)ブログに書いたやつだったので名前出さないように必死です自分。
グリが先輩で白崎の弟が一護で(双子だけど)。会長って生徒会長のことですがお察しの通りウルキオラです。付き合ってるけどツンデレなので上手く感情を伝えられない白崎ー。ウルみたいに上手く汲み取って上げられなくてちょっとした言動で白崎傷つけちゃうグリとか。一護を引き合いに出されたら勝てる見込みが無いので落ち込む白崎とか。グリはグリでウルを出されると嫉妬心MAXふぁいやぁー!でキレ出すとか。白崎は生徒会に入ってて会長のウルのお気に入りとか。関係ないけど一護は先生の剣ちゃんとひっそり放課後ラビラビとか。
素敵な学園パロは他のサイトでお楽しみいただけるのでいろいろ突っ込みどころ満載な感じが一番いいんじゃないかなとか…!とか…!