息ができない
誰か助けて
好きだって。
気づいたのなんか、すごく最近。
その感情を知る前に、身体が先に重なってたから、そんなもん何かの錯覚だって言い聞かせてた。追い詰められて、抵抗する隙も暇も無いまま。唇から順に重ねられてくその行動に、感情が連鎖反応起こしてるだけだって。
だから、自分の気持ちじゃないなんて。
どの口が言ってたんだか。
「ぅ…、……っ、は…っ」
息が、出来ない。
呼吸って、どうやってすんだっけ。
わかんない。
誰か、助けて。
誰か、教えて。
なんで。
アイツの上に俺じゃない違う誰かが乗ってるってそれだけで、こんな、 ……
なんなんだよ、これ。
目の前がくらくらする。
っていうか、視界が利かない。
真っ暗だ。
上と下が良く分からない。
苦しい。
キモチワルイ
指先が冷たいのが分かるのに、心臓だけ壊れたみたいにバクバク鳴ってる。
ねぇ、なんで。
アンタなんか好きじゃないって。
言ったの誰だよ。
どの口がそんなこと言えたの。
「ぅぐ…っ、は、ァ…っ っ……」
こんだけ空気吸い込んでんのに、肺が酸素を受け付けない。
苦しい。
苦しい。
胸が痛い。
キモチワルイ。
助けて。
助けてよ。
たった、襖一枚隔てた先の空間で。
アンタが別の誰かを相手してるって考えただけで。
なんかの病気の発作みたいに、身体がおかしくなる。
(止めろ… さわ る な … っ )
平衡感覚を保てなくなって、膝が床に崩れるほんの少し前。
「何やってんだ」
「ぁ…」
物凄い力で重力とは逆の方向に身体ごと腕を引っ張られて身体が浮き上がった。
「わ、大丈夫…」
「触るな。」
「え…」
俺を見つけて慌てるそいつの腕は振り払らわれて、広い腕の中に俺の身体が納まった。そのまま部屋の中に引き摺られるようにして移動させられる。
「ちょ、」
「さっさと失せろ。目障りだ。」
「っ!」
酷い言葉で追い出された相手が、俺を睨んで足早に出て行く。酸素不足で思考が追いつかない頭で、それでも、コイツが俺を選んだんだというそれだけで嬉しかった。
「おい、大丈夫かお前…」
「は…、わか、んね…っ……き、できな…」
未だ呼吸の仕方を忘れた身体は酸素を欲しがってもがいている。
酸素が足りない。
空気が足りない。
どれだけ吸い込んでも、吸い込んでも、足りない。
「く、るし…っ」
呼吸の仕方を、誰か教えて。
「は、…っ……、っ!」
苦しさから逃れるように酸素を求めて空気を吸い込むが、やはり肺は拒否するように余計に苦しくなるばかりで。どうしようもなく、縋る様に握り締めた裾を静かに外されて。それでも求めるように空を切る手が骨ばったコイツの大きな手に捕まれた。
あぁ、と。手の平から浸透する体温に安心するように目を瞑った瞬間に、
噛み付かれるように酸素を求めて開いた口をまるごと全部喰われた。
「ふぐ…っぅ? 、ん、ン…っ!」
息が出来なくて苦しいのに、更に口を塞がれたんじゃ堪ったもんじゃない。
苦しいって。
離せって。
じたばたともがき暴れ出す俺を易々と手懐けるように抑え込んで口塞いだまま、自分の二酸化炭素と唾液をいっぺんに送り込まれる。同時にスルリと入り込む舌に上顎を撫ぜられて後頭部の辺りがざわざわと逆立った。
「はぅ…、っ…ふっ、ンん…」
長い舌に口腔内支配されて、呼吸器官に入り込むのは求めてた筈の酸素じゃないのに。いつの間にか、苦しさは何処かに消え失せていて。ゆっくりと唇を離されて銀糸がふつりと消える頃になって漸く、『酸素不足』ではなくて『過呼吸』の状態に陥っていたんだと教えられた。
「は…」
「…大丈夫か。」
「ん…。」
荒く息を吐きながら包まれていた体温に身体を深く預けて、そしてやっと思い知った。
どうやら、不足していたのは酸素じゃなくてコイツだったらしい。
-了-
■ヒトリゴト■
え、何。こんなんで終わんのお前。
ちなみに剣ちゃんは上に乗られただけで自分からは何もやってないですよ。
っていうか寧ろ拒絶する前に一護が倒れそうなのに気づいて出てったみたいな。
上に乗ってた人はご想像にお任せします。
女か男かもどっちとも取れるようには、書いてある、筈…っ!
赤丸さんであまりに二人がラブラブだったのでせっついてみたかった。
っていうか、いつもどおり、ウチの一護はどんなけ剣ちゃん好きなんだよ。
そんな呼吸の仕方忘れるくらいに。
ていうか突発物だからストーリー性だとかそんなもんは無いです。
はい。突っ込み禁止。
※過呼吸を起こした場合は自分の吐いた二酸化炭素を吸わせるのが一番です。上から紙袋を被せましょう。(ビニール袋より紙袋の方が効果的らしい)えぇ、間違っても口塞いじゃったりなんかしちゃだめですよ。それも口で、とか言語道断です。(そりゃそうだ)