Kiss

貴方に、最大級のキスをあげるよ
ちゃちぃチープなSSサイズなんかじゃなく
特大の、最大級のLLサイズのキスを、さ。


「修兵、知ってる?」
「あ?何をだ?」

 情事後の気だるくも甘ったるい雰囲気、薄闇の中一護は隣で煙草を吹かす修兵に問い掛けた。そして、質問に質問で返した修兵の額に、一護は軽くキスする。

「なんだよ。もう一回シテ欲しい訳?」
「違ぇよ、エロ修。現世では、さ。キスはする場所によって意味が違うっていう詩があんの。聞いた事無い?」

 一護からのキスに図に乗った修兵が、一護の腰に手を回して引き寄せるが、一護は軽くかわす。

「へぇ。聞いたこと無いな。どんな詩?」

 そんな一護に機嫌を損ねる素振りも見せず、修兵はその詩に興味を持ったように一護に話しを促した。


手なら尊敬 額なら友情
頬なら厚意 唇なら愛情
手の平なら懇願 瞼なら憧れ
腕と首は欲望
――其れ以外は狂気の沙汰


「接吻」-フランツ・グリルバルツァー-


 一護は静かにキスの格言をすらすらと語った。その朗読を静かに聞いていた修兵だったが、一護が言い終わると同時に吹き出した。

「すっげぇな。ははっ 其れ以外は狂気の沙汰ってよー」
「なー。俺もそう思った。」

 ラストの下りに二人して「そりゃァねぇだろ」と笑いながら、修兵は側に置いていた灰皿に煙草を押し付け消した。頬杖を付き、一護に視線だけを向けながら、対の手を一護の胸に這わせる。

「じゃあ、俺の付けたこのアトも全部、狂気の表れってことになるんかね?」
「――…さァ、な。」

 修兵の科白に一護は薄く笑い、修兵の瞼にキスを送る。

「…さっきのが友情で、今のが厚意?だっけ?」
「後半ハズレ。瞼は憧れだよ。」
「唇にはしてくんねぇの?」
「へぇ。首か腕にしてくれって言うと思った。」
「心外だなぁ。首と腕には俺がするもん。」

 その科白と同時に、修兵が一護の首筋と二の腕にチュっと音を立ててキスを落とす。軽い掛け合いに二人は笑いながら、お互いの身体に口付け合った。

 ふと、一護が思い出したように言う。

「そういえば、心理学的に後二つ、追加できるぜ。たしか。」
「シンリガクって何?」
「んー…人の行動や態度で相手の心を読む学問…かな?」
「ふぅん…。で?何が追加されんの?」

 一護の説明に分かったような分からないような返事を返しながら、修兵は首を傾げた。

「――耳が『征服』で、足が『服従』。」
「 ブッ」

 少し間を置いて説明した一護の科白に、修兵は一瞬面食らったような顔をし、次の瞬間派手に吹き出した。

「あはっ はははっ スゲェー選りにもよってSMかよー」
「んなに笑うなよ!なんか俺が笑われてるみてぇじゃんか!!」
「わっ 悪ィ悪ィ… で、でも… くくっ」
「うっわなんかマジで腹立つ!」

 余程ツボに嵌ったのか、怒る一護を尻目に修兵は際限無く抱腹絶倒する。

「――それで?」

 一頻り笑った後、修兵は一護の頭に手を置きながら聞いた。

「一護はどちらを御所望で?」
「――…足って言って欲しいのか?」

 軽く弧を描いて笑う修兵に、一護も同じように笑みながら問いに問いで返した。しかし、

「どうせどっちを言おうと耳にする癖に」
「良く御分かりでv」

 答等判り切っていると一護が言うと、其れに気を良くしたのか早速と言わんばかりに一護の耳元に口付けを落とした。

「別に足にシテもいいんだぜ?」
「――は?」

 其の侭、修兵は耳元で一護に囁いた。その言葉に一護は訝しげな顔を向けるが、修兵は構わず蒲団を捲ると、まだ浴衣すらも着ていない一護の踵を掴み、足の甲に口付けを落とした。

「――ちょっ」
「一護になら、俺は服従したって構わねぇよ。お前が望むなら、この眼も腕も脚も、心臓だってくれてやる。」
「修――」
「一護がそうしろって言うなら、束縛も拘束も監禁も喜んで受け入れてやる。――心ならとっくの昔に、お前に繋がれてんだからな。」

 言い終わるのと同時に、修兵がまた脚の甲にキスをする。本当に愛しそうに唇を落とす様を見て、一護は紅潮した顔を逸らした。

「――馬鹿かお前…。」
「ぅわ酷っ!修兵君傷つくよ?!」

 結構真面目に言ったのにー!と一護の言葉に大袈裟に反応する修兵の手を取り、一護は軽く眼を閉じて手の平に口付けた。

「拘束なんかしたら、お前に抱き締めても触れても貰えなくなるだろが。」
「――ぃち…」

 修兵が呼び終わる前に、一護が修兵の唇に自分の其れを重ねる。

「お前に抱き締められんの、結構好きなんだかんな。」
「―――っ」

 言い乍顔を更に赤らめる一護の頬を滑り、伸ばされた修兵の腕が一護を抱き込んだ。

「っかやろ… んな可愛いコトばっか言ってっと、我慢出来なくなんだろが…」

 一護の橙の頭に顔を埋めながら、二度にも渡る珍しい一護からの直球的な告白に感極まった修兵が呟くように言うと、

「――俺、お前が我慢してるトコ、見た事無いんだけど。」

 なんて、先程とは打って変わって可愛く無い事を同じ口で平気で言うから。黙らせる為にまた唇を重ねた。


 頬へのキスは厚意。けれど俺の場合は愛しさを込めて精一杯。思いやりなんて要らないから。
 額へのキスは友情。友愛なんて俺達の間では直ぐに形を変えてしまったけど、其れでも残る、僅かな思い。
 瞼へのキスは憧れ。いつでも格好良い所しか見せない気障なお前に、俺が溺れている証。
 掌へのキスは懇願。この思いがいつか狂暴な形に変わってしまっても、その手で俺を抱き締めて。
 唇へのキスは愛情。言うまでも無く、言う事も無かったこの思いを、言葉の代わりに思いを込めて。
 これが、お前の愛情表現に素直に言葉も返せない俺からの、精一杯の、愛情表現。

 貴方に、最大級のキスをあげるよ
 ちゃちぃチープなSSサイズなんかじゃなく
 特大の、最大級のLLサイズのキスを、さ。

 でもね?修兵。キスのサイズを最小から最大に変えると、意味が180度変わる事、今は未だ、黙っててあげる。
  ..
 其れをするかしないかは、全部お前に掛かってんだから、さ。

-了-



■ヒトリゴト■
………これの謎掛けの答を当てられた方に修一キス絵プレゼント☆(誰も要らねぇよ)