浅くなる呼吸を何とか抑えて
縋りそうになる衝動に負けそうになりながら
どうにか 日常をやり過している
「…ゲホっ… っは、──ぐ、ぅ…っ」
内臓毎込み上げる様な嘔吐感に耐え切れず、傍の壁に手を付いて自重を支えた。
最近、頭痛や嘔吐などの体調不良がずっと続いている。医者に行くのが厭で、なんとか市販の薬で抑えていたが、流石にそろそろ限界かもしれない。
…原因等、分かっている。分かりきっている。これは──
「おう。こんなところに居たのか。」
「──…な、んで…」
その元凶が、此処に居るのか。
「くく、俺にお前の居場所が分からねぇわけねぇだろ?」
笑いながら当然とばかりに吐かれたその科白に、今更ながら自分に逃げ場所は無いと知る。──否、己に無いのは逃げ場ではなく、『居場所』…か。
「…は、何しに来たんだよ?」
「今更聞くか?其れを、俺に。」
幾度と無く繰り返される無益な行為。其れを否定して欲しくて自嘲気味に出した質問は、用意された答えにより、あっさりと肯定された。
「──っ」
いきなり襟首を掴まれて、強引に唇を重ねられる。
途端に、込み上げる嘔吐感。
慌てて厚い胸板を引き剥がして口元を押さえる。
「っぅぐぇ…っ」
「──っおい?!」
もう既に胃の中は空で吐く物も無かったから吐きはしなかったが、流石に同時に眩暈に襲われては自分の体重を足だけでは支えられず、壁に凭れながらズルズルとその場に座り込んだ。
大丈夫かと慌てたように自分を支えようとする相手に何故か笑いが出てきて、もう壊れかけているんだと、ぼんやり思った。
「お前──」
コイツが何かを言う前に、今度は俺が唇を塞いだ。
拒否の言葉は、聞きたくない。
「…なんて顔してんだよ、お前らしくも無ぇ…。」
「── …」
「ヤりに来たんだろ?俺と── 良いぜ。」
『──ヤろう。』
先ほどコイツがしたように、襟首を引き寄せて耳元でそう囁けば、何かを言いたそうに戦慄く唇にまた吸い付いた。
心は醜い程にお前に溺れているのに、伸ばした手を払われるのが怖くて虚勢を張らずに居られない。
其れでも卑しくお前を求める躯は正直で、お前からの快楽に従順に反応を返す。
其の様を如何に罵られようと白濁に塗れる精紳では太刀打ち等出来るはずも無く。
唯、躯から心が剥がれていく音が自棄に頭に響いていた──。
-続-
■ヒトリゴト■
心身剥離症候群続編。
求める心を無視して身体を駆使し、徐々に二つは剥がされていく。