「──俺さ。死のうと思うんだ。」
彼の声が、言葉、が。
幻聴だったら良いのにと。
叶わない願いのように。
唯、只管に、
強く 祈った。
「二人の足取りは掴めたのか?」
暗闇の中、淡い光の元で会話が交わされる。
「…それが…日本という国に逃げたところからさっぱりです。」
「…日本、か…。厄介だな。」
「えぇ…。あそこは…」
そうして一人が口を噤んで、其の言葉に続く言葉は終ぞ出なかった。
暗闇。
純粋な、暗闇。黒、しか存在のない、暗闇。光の存在し得ない其の場所に、しかし。
白く光る存在は居た。
「───…」
けれど、彼はまだ言葉を発しない。必要が無いからだ。
そして、静かに扉は開かれる。同時に這入り込む筈の光は矢張り。
無かった。
「…なんだ。もう逃げんの止めたのか?つまらねぇな。」
光の代わりに入り込んできた存在は、苛立ったような、しかし気だるそうな声色で言う。
「…っは。『逃げて欲しい』みたいな言い方だな?」
───ダァンっ
「か、はっ…!」
挑発するような態度で彼を迎えた白い存在は、次の瞬間には壁に叩きつけられていた。
「…あんま、怒らせんじゃねぇよ…。テメェの心臓は俺が握ってんだって、忘れんな。」
苛立ちをそのまま存在にしたような、ある種人間のようで獣のような、その男は。
かさり。
乾いた音を立てて、静かに草が揺れる。吹き抜ける風は何処までも優しくて、そして、空にぼんやりと浮かぶ満月が、何故か自棄に贋作のように見えた。
「………、っ ──」
ナニカ。
何か、言わなければならないと思っているのに、声にならない。何と言葉をかければいいのか、分からない。俺には、其の資格は無いんだと分かっているから、尚更、言いたい台詞は咽喉から上に上がってこない。
「……、そんな、顔させるために、言ったんじゃ、……無かったんだけどな。」
言いたい台詞も出ないまま、俯いていると、彼は寂しそうに、呟いた。其の声は、強さを増してきた風に掻き消されることはなく、俺に届く。
「…………」
「 悪ィ。………、」
俺から視線を逸らして、彼が悪いわけではないのに、謝られた。
如何しようも無くて。俺の力では如何にも出来なくて。それが、何よりも悔しくて。…悲しくて。如何すれば良いのか、何て言ったら良いのかも分からないまま。
気がついたら、唯、一護を抱きしめていた。
-続-
…まだ、続きます…よ。っていうか、序章にすらなってない…orz