糾弾
1.かずあわせ

「──俺さ。死のうと思うんだ。」

 彼の声が、言葉、が。
 幻聴だったら良いのにと。
 叶わない願いのように。
 唯、只管に、

 強く 祈った。


+ + +


「二人の足取りは掴めたのか?」

 暗闇の中、淡い光の元で会話が交わされる。

「…それが…日本という国に逃げたところからさっぱりです。」
「…日本、か…。厄介だな。」
「えぇ…。あそこは…」

 そうして一人が口を噤んで、其の言葉に続く言葉は終ぞ出なかった。


+ + +


 暗闇。
 純粋な、暗闇。黒、しか存在のない、暗闇。光の存在し得ない其の場所に、しかし。
 白く光る存在は居た。

「───…」

 けれど、彼はまだ言葉を発しない。必要が無いからだ。
 そして、静かに扉は開かれる。同時に這入り込む筈の光は矢張り。
 無かった。

「…なんだ。もう逃げんの止めたのか?つまらねぇな。」

 光の代わりに入り込んできた存在は、苛立ったような、しかし気だるそうな声色で言う。

「…っは。『逃げて欲しい』みたいな言い方だな?」

───ダァンっ

「か、はっ…!」

 挑発するような態度で彼を迎えた白い存在は、次の瞬間には壁に叩きつけられていた。

「…あんま、怒らせんじゃねぇよ…。テメェの心臓は俺が握ってんだって、忘れんな。」

 苛立ちをそのまま存在にしたような、ある種人間のようで獣のような、その男は。


+ + +


 かさり。
 乾いた音を立てて、静かに草が揺れる。吹き抜ける風は何処までも優しくて、そして、空にぼんやりと浮かぶ満月が、何故か自棄に贋作のように見えた。

「………、っ  ──」

 ナニカ。
 何か、言わなければならないと思っているのに、声にならない。何と言葉をかければいいのか、分からない。俺には、其の資格は無いんだと分かっているから、尚更、言いたい台詞は咽喉から上に上がってこない。

「……、そんな、顔させるために、言ったんじゃ、……無かったんだけどな。」

 言いたい台詞も出ないまま、俯いていると、彼は寂しそうに、呟いた。其の声は、強さを増してきた風に掻き消されることはなく、俺に届く。

「…………」
「  悪ィ。………、」

 俺から視線を逸らして、彼が悪いわけではないのに、謝られた。

 如何しようも無くて。俺の力では如何にも出来なくて。それが、何よりも悔しくて。…悲しくて。如何すれば良いのか、何て言ったら良いのかも分からないまま。

 気がついたら、唯、一護を抱きしめていた。


-続-


…まだ、続きます…よ。っていうか、序章にすらなってない…orz